BRktmrm

北村薫 ◇「飲めば都」

【Author】北村 薫
【Title】飲めば都

文芸編集者:都を中心に描かれる、お酒にまつわるワハハな失敗たち。年月を重ねるにつれ変わっていく環境とその中で起こるいろんな出来事が、肩肘張らない気安さで読後の余韻として残る。
青春小説の濃く短い時間感覚とは違った佇まいが読んでいてとても印象的でした。特に恋愛の描写に少し距離を置いた感が、読んでいて非常に新鮮な味わい。そこに宿る感情自体は別にさらっともあっけらかんともしてない訳ですが、「それはそれとして、酒飲んで寝たら明日が来ちゃうよね」みたいなスタンスの文章。独特な視点から表現される時間のやさしさみたいな感覚が、ヨッパライエピソードの俗っぽさと調和して何故かおしゃれな空気を持ってきてくれている。不思議。

『強烈なイベントと大きな成長の物語』とは趣の違う、過ぎ去っていく日常と後から気付く変化の物語。北村薫と言えばなんかもう「女性を魅力的に描く!すごい!」がホント凄くてそこばかり語られがちな空気も感じてますが、それはもうそれとして今作についてはこの穏やかな読感の魅力を特筆しておきます。あとは地の文の軽妙な立ち位置も。最初の一行で「さて、都さんのことを話そう。」と切り出しつつ、少し読み進めると「―いや、この辺でもうおなじみになったことだろうから、《さん》を取ろう。―」などとしれっと呼び方を変える。語ってるなあ、と思わせる人間味のある文章が、嫌味なく、そしてかなりしっかりと主人公の自己紹介を済ませてしまうのがニクい。

文芸編集者が主人公という事もあり、本の仕事に興味があると余計に楽しい。酒の席での失敗が話の軸になるので、「飲み会の雰囲気を眺めるのが好き」という方にもうってつけ。お酒のウンチクもちまちま読めます。

・・・

さてさて、余談ですけども。
私は北村薫著の《時の三部作》(『スキップ』『ターン』『リセット』)が大好きで、事あるごとにいろんな人に勧めています。あちらはどちらかと言うと『強烈なイベントと大きな成長の物語』寄りですが、オススメです。『ターン』については過去twitterでちまちまと感想書いてたので以下拾い集めてみました。


言葉を好きになる事とか、孤独感への対峙だとか、運命の出会いに対するちょっとした憧れも。影響を受けて長く自分の価値観として携えてきた物があの二作品には多くあります。高校生時代、ラノベ好きから小説好きへ拡張したきっかけも『ターン』だったような。”好きな言葉は「自尊心」”(こちらは『スキップ』の中の一節)というくだりを心の中で反芻し続け、今になってもその意味を読み取ろうとし続けている自分がいます。

Posted by:

畳色@mossgreen

Leave A Comment

Your email address will not be published. Required fields are marked (required):