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竹宮ゆゆこ◇「知らない映画のサントラを聴く」

【Author】竹宮ゆゆこ
【Title】知らない映画のサントラを聴く

 発端はあの夏だ。
(私はあの頃、回転を必死に止めようとしていた)
 あの夏あの夜、家のガレージの壁際に自転車を引き込んだ、あの深夜。あの午前三時。(p.9)

 大切な“恐らくは枇杷にとってしか価値などないはず”の、親友からの贈り物。それを奪われた主人公:錦戸枇杷が捜索の末に犯人と出会い、関わっていく。その中で、止めようとしていた回転に向き合い、また回し始めるまでの物語。身も蓋も無いあらすじとして表現しなおせば、『無職が現実と向き合って最終的には職を得る話』です。オフザケな時もシリアスな時も、喜怒哀楽鮮やかな会話の応酬が賑やかで。ひたすらごろごろだらだらする一方で目的を決めればやたらと行動的な、無職であるがゆえの枇杷の自由さも楽しい。とにかく軽快。

今は自分が、ごめんなさい畑のド真ん中。ここに立っている者にしか、見えない景色というのもある。それをこうなって、初めて知った。(p.222)

 でもやっぱり重いときは重い。とはいえ。作品の中心で蠢くとてもネガティブな感情も、ライトノベル的でもある軽妙な文章のおかげで「バカな事やってないでさっさと元気出せオラ」とある程度は無責任に読み進められます。恋愛や青春の似合うわちゃわちゃとした雰囲気の中、しかし枇杷が走ったり叫んだりするのは後悔へ対峙するため。めっちゃ頑張るのを見守って、ラストは「回転するもの」を一緒に連想していきましょう。

・・・
 読むのは漫画ばかりだなぁ、というのが頭の片隅に最近は居付いていた。平積みされていたカラフルな表紙に目が留まり、一瞬遅れてタイトルに強く情緒を感じ、「とらドラ!」の作者という情報をギラついた帯で知り購入した。病院の待合で読むつもりだったが存外にその時間は無く、帰宅後に予定と予定のスキマで半分を読み、夕飯後にTVのフェンシングをBGMに残りを読んだ。裏表紙の主張する「圧倒的恋愛小説」は別段見当たらなかったが、最後のページのその次には控えていそうだった。

 あとがきの無いまま鎮座する“本書は新潮文庫のために書き下ろされた。”の一文が、静かに余韻を残して行った。良い感じでしたよ。

Posted by:

畳色@mossgreen

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