津村 記久子◇「ミュージック・ブレス・ユー!!」

ミュージック・ブレス・ユー!!/角川文庫
著:津村 記久子

高校3年の、未来が迫ってくるどこか窮屈な日々を過ごす女の子アザミの話。赤く染めた髪と長身、交換の度に変わる歯列矯正器のゴム色が目立つ彼女だが、物語中はむしろ控えめで、言葉を選んでばかりの印象だ。『けれどアザミは、彼女たちと楽器を演奏することが、自分が音楽を聴くこと以上に大事なこととはどうしても思えなかった。(P110)』バンドは辞めてしまったきりほとんど引きずらず、一方で日々聴いた曲を感想つきでリスト管理するようなタイプの音楽好き。作中、アザミは様々な人と知り合い、会話を重ねていく。スタジオの受付でバイトをしていたパンク少年、矯正歯科の待ち時間で景気良く会話を弾ませる男子、一年前に学際で起きた事件に関わった茶道部の子、自分以上に孤独に音楽漬けのメガネ、などなど。どの人間関係もすっきりとはいかず、とは言え明確な壁があるわけでもなく、要するに非常に現実的な、単純な「仲良し」よりも込み入った友人関係がアザミを容赦なく大人へと引き上げていく。文庫裏表紙の『ぐだぐだの日常を支えるのは、パンクロックだった!』という文章から感じられる痛快さはむしろ薄く、スラングに塗れた叫びで雑念を洗い流す様には孤独が漂っている。

以上あらすじ。

高校最後に押し寄せるイベントの数々を淡々と。一冊を通じてストーリーのうねりというのは特に無く、ちいさな事件の積み重ねの後に卒業式があるというだけの話。それなのに、続けて終わりまで読んでしまった。途中までは、これは恋愛に発展でもするだろうか、これは大事件に発展するだろうかなどと思っていたが、終盤は何も無く退屈に終わるだろうなという予感を小脇に抱えながらそれでも読んでいた。アザミの音楽を聴くときの姿やレコードショップでの動き、ついでに言うと進路相談の会話など、私のよく知っている光景がいくつもあったからかもしれない。

生来の性格では言いたいことをそのまま言ってしまうとのアザミだが、結構いろんな場面で言葉を選んでいて、その辺りも少し愛しい。『Rest in Peace.と書いても実感が湧かない。(P214)』定型文への疑問は私も割り切れなかったりするわけで、その一点でも酷く感情移入してしまう。

自分の高校時代と、音楽を聴いてきた膨大なひとりの時間を思い出しながら読んだ。「!!」は余計だと思うが、音楽がきっと君を祝福してくれる、とアザミに伝えたくなった。

Posted by:

畳色@mossgreen

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