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「一人用TRPG」ソルヴァーズとジャンル論。

1|ソルヴァーズが面白い。

アナログゲーム雑誌「スパ帝国」Vol.22に付属された一人用TRPG「ソルヴァーズ」が面白い。

まず、基地シートを印刷する。
5つのダイスを振る。出た目を前にしてひとしきりうなる。
そして、キャラシートの各項目にダイスを並べていき、数字を書き写していく。
ミッション1で振れるダイスは、このキャラクターなら2つか。一方で取れる行動の数は3項目。念を送り、手の中のダイスをかちゃかちゃと躍らせる。

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ダイスの結果はもちろん運次第だが、このゲームにおいて「1が弱い。6が強い。」は通用しない。
ゾロ目に価値があったり、1が一番強かったり。確かな強さは「同時に振れるダイスの数」だけだ。
一方で「振った後で、各ダイス目を用意された項目に割り振っていく」という基本システムが運の要素を大きく減らしている。
考える事で活路を見出す、意志決定のゲームとして丁寧にデザインされている。

「考える事で活路を見出す」という要素は、ミッション間の内政フェイズも同じだ。
設備スペース、経験値、名声値などなど。各種資源は入手にかなり制限がかかっており、そこかしこにトレードオフが転がっている。
絶妙に調整されたバランスの上では、時にミッションの失敗すら価値あるものに変貌する。

そして忘れてはいけない、たくさんのテキスト。

動画「Civilization4 スパイ経済」で聞くことのできる、活き活きとそして容赦なく斬り込む語り口をふんだんに盛り込んだ「ソルヴァペディア」の各項目。
ミッション内で割り振る各行動に添えられたささやかな描写。
ミッション結果に応じて語られる「輝かしい未来でもディストピアでもない世界」でおこる事件たち。

世界は焦点の絞られたミニマルなものだが、想像に十分な行間は用意されている。

ゴリゴリと事件に体当たりしていくヒーローたちをぼんやりとイメージしつつ、
足りない資源をやりくりし、振ったダイスと睨めっこをしてジレンマを味わう。気が付けば1時間経ってたりする。ちょっと待て明日は仕事だぞ!

 

 

そんな面白いゲーム「ソルヴァーズ」だが、個人的には他にも興味深い部分がある。
「1人用TRPG」と掲げられたジャンル名だ。こういう奇抜なジャンルは、ふだん音楽のジャンルでやいのやいのと話をしている身にとり格好のネタである。

そんな訳で、以降本エントリでは
2|ジャンルには種類がある
3|ソルヴァーズはTRPGか?
4|「1人用TRPG」の正体

と章立てして、うにうにと語っていこうと思う。ゲーム本編を楽しむ事と関係が無く、ついでに言うとゲームを人に勧めるには全く役に立たない文章だが、ジャンル論争の不毛さを幾許か軽減できる事を目指して書いていきたい。(なお、人に勧める場合はtwitterで#ソルヴァーズタグを見ると幸せ)ちなみに前提として、筆者は変態音楽趣味野郎でありTPRGは全くの門外漢である。そのため浅い知識しか持っていない部分も多い。文章は音楽のジャンル論争で得た知見と受け売りとで構成される事をお許し願いたい。

あと忘れないうちに言っておくが、本エントリの結論は

ソルヴァーズはTRPGから派生したサブジャンル「1人用TRPG」のゲームである。

となる。つまり「TRPGから派生したサブジャンル」という文言を加えるためだけに、延々拙い文章を捻っている。ホントご了承ください。

 

2|ジャンルには種類がある

何も「世界にはいろんなジャンルのゲームがあるよね」という話がしたいのではない。誰かが特定のジャンル名を口にするとき、それがどういう概念を示すのかは一種類では無いのだ。以下にA,B,Cと挙げてみる。

A:「共通する要素で構成される対象のあつまり」に対するタグ付け

「タグ付け」とした理由は、例えば「縦スクロール・シューティング」「アクション・RPG」などを想起すれば分かっていただけるだろうかと思う。
一般的な「ジャンル」のイメージがこれに当たるが、もうひとこえ。ここから2つに小分類が出来る。

A-1:ジャンル名の語源に則した分類
これについては「馬場秀和のRPGコラム|初心者のためのRPG入門」より、

A.ゲームマスターから与えられた目標の達成に近づくこと。
B.自分のプレーヤーキャラクターに期待されている役割分担(戦闘とか治療とか情報収集とか威嚇とか権力行使とかユーモアとか・・・)をきちんと果たすこと。
C.プレーヤーキャラクターの言動が、背景世界設定やキャラクター属性(年齢、性別、職業、特徴、性格、生い立ち、各種の能力、その他その他の設定情報の集合)と整合していること。
プレーヤーキャラクターの言動は、背景世界やキャラクター属性と矛盾しないだけでなく、それらを活かしたものにすることがより望ましい。
D.ゲームのジャンルや狙いの再現に向かうこと。例えば「ホラーRPG」であれば恐怖を、「冒険活劇RPG」であれば痛快な冒険を、プレーヤーが再現する(疑似体験する)ことが望ましい。

上に示した4つの条件のうち、特にB.とC.のことをロールプレイングと呼びます。もともとはB.のことを役割(ロール)遂行(プレイング)という意味でロールプレイングと呼んでいたのですが、最近ではB.とC.を合わせたものがロールプレイングだとされています。このように「ロールプレイング」を特徴とするゲームであることから、ロールプレイングゲーム=RPGという名称が使われているわけです

役割を遂行するゲームだからRPG。語源に則している。
「いや違う!RPGは役割を演技するゲームだ!」という話もあり、両者が対立したりするわけだが、この場合はそれぞれ語源に則しているのでもう別ジャンル扱いで良いと思う。だって意味が違うんだったらジャンルも別じゃないか。

閑話休題。

A-2:分類されたあつまりの中から二次的に発生し、語源からは離れた物。
先述の引用で言うところの、「最近では」以降の部分だろうか。言葉がより広義的になり、直訳では語弊が生まれるようになる。この辺り音楽は分かりやすく、「前衛的なロック」を目指してムーヴメントとなった「プログレッシヴロック」が、気が付けばルールでがんじがらめになっているような話である。どれだけ前衛的であっても、変拍子が使われていないがために「いやこれはプログレッシヴロックじゃない」と言われたりする。

B:販売者が掲げる看板

これも忘れてはいけない。というかジャンル名の出発点は大抵これだったりする。ユーザー命名のジャンル名は、SNS発達以前はただの内輪ネタとして消費される物が大半だったのではないだろうか。
多くは先述のAに則したものだが、必ずしも一致しない。

C:”俺様”が気に入った物に与える勲章

本エントリでは無視させていただく。

ジャンル関連で口論になっているときはまず、各人がどの意味でジャンルを認識しているかを知る事が肝要である。Cを主張している人間にA-1を説いても話にならないし、A-1とA-2が対立すると、果てに「真の」だとか「王道の」などが双方に付き始めジャンル名が肥大化していく。前もってすれ違いのポイントが分かれば、話はこじれる前に終結する。ハズだ。

そんなこんなで、次の章ではこの考え方を基準にソルヴァーズのジャンルを分析していきたい。

3|ソルヴァーズはTPRGか?

ソルヴァーズは1人用だ。ゲームマスターは不在であり、目標の達成には厳然とルールが敷かれている。またキャラクターは前職様々ながら「現職:ヒーロー」は一律で、「目標達成の為であれば、前職の経験に囚われず交渉だろうが地雷埋設だろうがやってのけろ」といった風情である。世界観を崩さない程度に筋は通っているものの、「勇者がタンスで物漁り」に近い違和感が残らないでもない。
またゲームプレイ自体は、ダイスを使った思考パズルといった感触が強い。キャラクターの言動はあくまで(魅力的な)フレーバーであり、役割の遂行は副次的な楽しみに留まっている。

ロールプレイングがゲームデザイン上で優位ではないという意味で、「これはTPRGではない」、と判断する事はできる。

さて、ここで冒頭の小説っぽい何かを読み返してもらいたい。ダイスを振る。キャラシートに書き込む。こういったプレイヤーが行う動作は全て、いわゆるTRPGで行われている物を利用している。

ダイスを振ってミッションに挑み、ダイスを振ってキャラクターを成長させる。経緯を順次紙に書いて記録して行き、物語を進めていく。

この文章をTRPGの説明に使う事は自然だと思う。そしてソルヴァーズもまた、この文章で説明が出来る。この要素は「ロールプレイング」の言葉から離れている。しかしこれらはTPRGによって育まれ、「TRPGならではの楽しさである」と言っても構わないと思う。
これらTRPGならではの楽しさの一端を一人でも味わえる様にデザインされたゲーム、それがソルヴァーズなのだと思う。

まとめよう。前章に則して考えると、
A-1としてのTRPGとは言い難いが、A-2としてのTRPGを部分的に満たしている。

さあ歯切れが悪いぞ。次の章で決着を付けよう。

4|「1人用TRPG」の正体

前章を踏まえた私の解釈でソルヴァーズをジャンル分けすると、「思考パズルとTRPGを掛け合わせた、ジャンルクロスオーヴァーなゲーム」といった所だろうか。実際伝わりづらいが、的外れというわけでもないと思う。さて、ここで2章で挙げたうちのB:販売者が掲げる看板としてのジャンルの話になる。看板なので、「如何に効果的にそのゲームの魅力を伝えられるか」という一点で選ばれるべきだ。

思考パズル×TRPG vs 1人用TRPG

後者の方が面白そうじゃね?という話である。このネーミングはかなり効果的だ。未プレイでもゲーム風景が想像しやすく、そしてそのイメージはあながち的外れでもない。良い看板だ。良い看板は人を集める。

ここで特筆したいのが、「1人用TRPG」はこれで固有の単語である、と言うことだ。ひとつにまとまって初めて意図した意味を持つ。
音楽の話を例に出してみよう。TRPGと1人用TRPGの違いは、丁度ロックとハードロックの違いと同じようなものだ。どっちも似たり寄ったり?そうだろうどちらにも興味が無ければ。全然違う?そうだろうどちらかが好きであれば。片方の方が優れている?知るかそんなモン。両ジャンルに良質な物とクソな物が個別に存在するだけだ。

というわけで結論。ソルヴァーズというゲームは、
TRPGの要素を持ち、(1人用として成立させるべく)他ジャンルとのクロスオーヴァーを行った結果として生まれた、
TRPGから派生したサブジャンル「1人用TRPG」のゲームである。ということ。

このゲームは既存のTRPGファンをそもそもターゲットにしていない。
TRPGのゲーム性ってどんなところにあるの?という外の世界の人や、歯ごたえのあるノンフィールドRPGがしたいけど運ゲーはもうコリゴリだよ!という人に一番オススメしやすい。既存のTRPGファンとは距離のあるゲームなので、プレイ人口の食い合いは起こりそうにない。TRPGの入門とも言い難い。

やっぱり別物なのだ。そしてそれはそれとして、物理ダイスを振り紙に数字を書いていくのは思った以上に楽しいのだ。

 

おわりに

私がこのクッソ回りくどくて結論がぽやっとした文章を書いた理由は、twitter上で「1人用TRPG」という言葉を強く嫌う声を見てしまったからです。
音楽が好きでそしてメタル好きを自称すると、何故かジャンル論争は避けられません。そしてその全ては不毛です。それをゲームの世界でも発見してしまった。やっぱり不毛だった。
「こんなのは○○じゃない」というセリフは、その○○を豊かにしてはくれません。ジャンルクロスオーヴァーによる新しいアイデアだけが、芸術を前に進めます。と、私は信じて疑いません。

不毛な言い争いをひとつでも減らす一助になればと願いつつ、いやこの文章こそ役に立たん不毛な産物なのではとも思いつつ。長文ご精読ありがとうございました。みんなソルヴァーズやろう。楽しいよ。

Posted by:

畳色@mossgreen

3 Comments

  1. kaol -  2014/06/12 - 10:20 PM

    >「こんなのは○○じゃない」というセリフは、その○○を豊かにしてはくれません~
    この行、私もその通りだと思います。いい記事をありがとう、参考になりました。
    物は試しで件のゲームを買ってみるのもいいかもですね。

    返信
    • 畳色@mossgreen -  2014/06/16 - 11:57 AM

      記事への評価をありがとうございます!

      音楽はかっこよければ、ゲームは楽しければ万事OK。のハズではあるのですが、コミュニティや文化が絡むことで「かっこいい」「楽しい」そのものが複雑化してしまうものです。そして「『楽しい』の複雑化」が良い事と悪い事を同時に生んでしまうのも、避けられないように思います。私なんかはこの辺りでメンドウになって「文化なんか知るか!核にある楽しさが保障されてりゃ良いんだよ!」となりがちですが。

      さておき。
      この件への言及を見ていく中で最もそれらしい意見は、以下の2種類かな、という印象です。1:「スパ帝氏の発言は全て”ゲームデザイナーとしてどうやっていくか”を前提にしている(この「全て」は数年越しでブレていない部分だと思います)」2:「ソルヴァーズは”何回でも新鮮に遊べるゲームブック”である(そしてゲームブックは当初1人用TRPGという位置づけだった)」
      あと追加として、
      「『月刊スパ帝国』読者の需要的に、今までで最もうってつけなデザインを備えたゲーム」という個人的な邪推も付け加えておきます。

      また、どうやらソルヴァーズは拡張版作成を視野に動いている様子。後追いでの購入であれば、そちらのリリースと評判をざっくり確認してからが良いかもしれません。個人的にはとても楽しめているゲームなのでオススメですが、本ブログの情報だけだと、ゲーム紹介の説得力は足りてないんですよね・・・。

      返信

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